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    これぞお役所仕事という感じ。

  • 2010.08.08
  • 100歳以上のお年寄りが行方不明になっている問題が勃発してから、メディアはその問題を大きく取り上げ、その甲斐あってか(?)全国で次々と行方不明となっている人が発覚、その数は近々に100人を超えそうな勢いです。昨年9月時点で全国の100歳以上のお年寄りは4万399人ということですから、それに占める割合でいったらわずか0.2%ほど。「平均余命の数値が違ってくる」という声も出ているようですが、このことだけでそう大きな変化が起こることはないでしょう。ただ、100歳以下であっても同じように行方不明の人は当然のことながらいるわけで、そういった人たちがいったい何歳で死亡したのか(あるいは失踪宣告→死亡宣告となったのか)がはっきりしてくれば、その数値は揺らぐ可能性はあります。まぁ、平均余命を算出する側としても、ある程度の誤差は計算式に入れているでしょうから、さほど懸念する話でもないのでしょうが。

    で、平均余命はさておき、これだけの行方不明者が公然と「生きている」という扱いを受け続けていたことには驚愕します。確かに、自分の親戚筋すべてを把握している人(極端に少ないとかは除いたとして)は、それも面会や電話などを頻繁にしている人というのは少ないでしょうし、「そう言えばあの人は……」的な人物が頭の中に浮かぶ人は多いでしょう。まして、例えば事業に失敗したりして親戚との連絡を絶ち、ひっそりと暮らしていた一家の最後の一人が死んだとして、そのことに誰が気づけるのか──、「家族関係の崩壊」ということでこの問題を片付けようとしている人も見受けられますが、そんな簡単な話ではないように思います。

    まず、この問題は、これはメディアでも語られていますが、性善説に立ちすぎたということが拡大させた大きな原因であることに間違いはありません。
    つまり、
    ・住所が変われば役所に届けてくれるハズだ
    ・死亡した場合には役所に届けてくれるハズだ
    そして、
    ・失踪したら家族が必死になって探すハズだ
    ・見つからない場合は警察に届けるハズだ
    ・子供は親を、親は子供を保護するハズだし、家族や親類縁者はお互いを気にかけているハズだ……。

    「こうなるハズだっただろう」と考えることはけして悪いことではないでしょう。住所変更をしなければ公的サービスを受けられなくなるという弊害が発生するし、死亡届を出さなければ火葬許可も埋葬許可も受けられずお墓に入れることはできなくなるわけで、単に性善説のみに非ず、こういった諸問題から考えてもこれらのことは守られる「ハズ」であったということもできます。
    さらに、単に性善説に沿ってこれらを実行してくれるように期待していただけではなく、これらはそれぞれきちんと法によってその取り扱いが指定され、ある場合には罰則すら伴っているわけで、「守られるハズのもの」で、かつ「守るべきもの」であったこともわかります。

    例えば、住民基本台帳法第3条では第3項に、「住民は、常に、住民としての地位の変更に関する届出を正確に行なうように努めなければならず、虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為をしてはならない。」と定めており、第22条から24条にかけて、その届けの原則を規定しています。
    第22条 転入をした者は、転入をした日から十四日以内に、次に掲げる事項を市町村長に届け出なければならない。
    第23条 転居をした者は、転居をした日から十四日以内に、次に掲げる事項を市町村長に届け出なければならない。
    第24条 転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。
    そして、第53条において、これらの原則に対する罰則規定が定められています。
    第53条 第二十二条から第二十四条まで又は第二十五条の規定による届出に関し虚偽の届出をした者は、他の法令の規定により刑を科すべき場合を除き、五万円以下の過料に処する。
    2 正当な理由がなくて第二十二条から第二十四条まで又は第二十五条の規定による届出をしない者は、五万円以下の過料に処する。

    死亡届に関しては戸籍法に定めがあります。
    第86条 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内に、これをしなければならない。

    家族間の助け合いについては民法による規定があります。
    第730条 直系血族及び同居の親族は、互に扶け合わなければならない。
    第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

    さて、こうなってくると住所の届けを出さなかった者が、そして死んだことを届けなかった家族が、助けなかった家族が悪いということになってくるかと思います。今回の件は、死んでいるのに家族が放置した例や、出て行った(失踪した)のに放っておいたなど、そのほとんどは家族に責任があるとも言えそうです。
    ただ、一方で、「国立社会保障・人口問題研究所によると、国勢調査などから今年の85歳以上の独居世帯は61万6千世帯もあると推計されている[産経新聞]」そうなので、やはり家族の問題だけで済まされるものではないことがわかります。
    もちろん家族や親類間の互助があれば独居老人の問題はある程度は解決されるかもしれません。「頼るべき家族がいない」という例を除いて、ということですが。


    で、僕は、今回の問題は公務員批判とは別次元の部分で、やはり行政の怠慢が招いた結果だと思います。そしてその怠慢はシステムの不備によって当然に引き起こされたのだと考えます。

    まず、行政の怠慢だとする根拠、それは行政による職責放棄です。
    国家公務員法では職員の職責を以下のように定めています。
    第96条 すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
    第101条 職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
    地方公務員法にも同様の規定があります。
    第30条 すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
    第35条 職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。

    そして、地方公務員法において、
    第3条 地方公務員の職は、一般職と特別職とに分ける。
     2 特別職は、次に掲げる職とする。
      3) 臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職
    として、民生委員の職を設けています。

    民生委員は民生委員法によって以下のように定められています。
    第1条 民生委員は、社会奉仕の精神をもつて、常に住民の立場に立つて相談に応じ、及び必要な援助を行い、もつて社会福祉の増進に努めるものとする。
    第14条 民生委員の職務は、次のとおりとする。
      1) 住民の生活状態を必要に応じ適切に把握しておくこと。
      2) 援助を必要とする者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように生活に関する相談に応じ、助言その他の援助を行うこと。
      3) 援助を必要とする者が福祉サービスを適切に利用するために必要な情報の提供その他の援助を行うこと。
      4) 社会福祉を目的とする事業を経営する者又は社会福祉に関する活動を行う者と密接に連携し、その事業又は活動を支援すること。
      5)社会福祉法に定める福祉に関する事務所その他の関係行政機関の業務に協力すること。
     2 民生委員は、前項の職務を行うほか、必要に応じて、住民の福祉の増進を図るための活動を行う。


    で、この第14条第1項第1号「住民の生活状態を必要に応じ適切に把握しておくこと」を根拠として、そして遡って地方公務員法第30条、第35条において、「職務の遂行に当つては、全力を挙げて」「その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のため」に用いると規定されているわけですから、民生委員が住民の生活状態を適切に把握できなかった以上、これはその職務の怠慢であるといっていいのではないでしょうか。

    ただ、ここに一つ大きな問題があります。
    民生委員法によって、民生委員は奉仕者であって、ボランティアであることが明言されています。
    第10条 民生委員には、給与を支給しないものとし、その任期は、三年とする。ただし、補欠の民生委員の任期は、前任者の残任期間とする。

    つまり、行政は、民生委員を住民の生活状態を把握するという目的において地方公務員法における特別職として認め、職務を委託しながら、その活動には奉仕の精神を要求しているのです。これは、自らは外部に出ずに高給を取り、一方で民生委員には無給で炎天下を歩いて回ることを強要しているといっても言い過ぎではないでしょう。
    この民生委員、テレビで杉並区の例が紹介されていましたが、杉並区は人口53万人、29万世帯を抱えており、一方で民生委員の数は420人程度。平均すると1人の民生委員が受け持つのは1250人、690世帯です。「無給」で、「毎日」、2件訪ね歩いたとしてまるまる1年かかるという状況です。もちろん不在者もいるでしょうから、昼夜を問わず、曜日を問わず、毎日2件以上を訪ね歩かなければいけません。そこまでしたとしても住民全員が訪問に応じてくれるハズはなく、これはシステムとして完全に破綻していると言えるのではないでしょうか。


    さて、今回の問題で、行方不明かどうかを確認するために一つの方法が採用されています。それは「高齢者でありながら医療や介護サービスを受けていない場合、行方不明者の可能性が高い」という確認方法です。現実には2年以上に渡って医療も介護も受けておらず、至って元気に生活しているお年寄りもいらっしゃったようですから、確実な方法というわけでもありません。ただ、少なくとも、そういう方法によって、一応の目星をつけることは可能なハズです。

    では、これをもっと幅広く応用することによって、その人の活動状態を知ることはできないのでしょうか。
    その考え方はずっと以前から存在してます。いわゆる「国民総背番号制」です。
    Wikipediaによれば「国民一人一人に重複しない番号を付与し、それぞれの個人情報をこれに帰属させることで国民全体の個人情報管理の効率化を図る。氏名、本籍、住所、性別、生年月日を中心的な情報とし、その他の管理対象となる個人情報としては、社会保障制度納付、納税、各種免許、犯罪前科、金融口座、親族関係などがあげられる。多くの情報を本制度によって管理すればそれだけ行政遂行コストが下がり、国民にとっても自己の情報を確認や訂正がしやすいメリットがある」と解説されているこの背番号制、いったいなぜ導入されないのでしょうか。
    その反対意見の多くは情報流出の問題と、いわゆる「プライバシー」の問題だと考えられています。ただ、情報流出の懸念から言えば、例えば一人一人にユニークな番号を割り振った上で、個々の、例えば本籍を知るために、性別を知るために、生年月日や保有銀行口座を知るために、さらにユニークな番号を掛け合わせていくというような管理によってある程度のブロックはかけられるでしょうし、氏名や本籍、住所などと、それ以外の情報とを別媒体(例えばそれ以外の情報はデータで、氏名等は紙媒体など)で管理するという方法だって考えられます。
    それに、そもそもそのことによって役所仕事が大幅に軽減され、公務員定数が大幅に削減され、住民税などのコストが下げられるのであれば、それとひきかえにプライバシーをある程度流出させる危険性を覚悟するという考え方だってできるはずです。
    これはクレジットカードを例に挙げればよく理解できます。我々は自ら望んで、世界中でキャッシュレスで買い物ができるという利便性と引き替えに、クレジットカード会社に自身の住所、氏名、生年月日、電話番号、勤務先とその規模および年収、利用銀行口座を伝えているわけです。他にも、既に我々の情報は、電話会社によって電話番号が、銀行によって保有資産が、レンタルビデオ会社によって趣味や嗜好が、かつそれぞれの機関によって、住所も氏名も電話番号も押さえられているわけで、それらの情報が流出することにいったいどれだけの人が危機感を感じながら生活しているというのでしょうか。もちろん、総背番号制によって、あらゆる情報が多元的に管理されれば、その情報は貴重なものとなり、それが流出する危険性は現在より考慮されるべきでしょうが、例えば、TSUTAYAで発行しているTポイントカードはすでに50社以上と提携しており、それはそれらの提携会社間で我々の個人情報が共有されていることを表しています。
    この情報共有に危機感を持つのであれば、例えばある会社がこの総背番号制によるIDをその会員登録の際に用いたとした場合、それをそのままの状態で保管せず、日々、あるいは1分1秒ごとに変化する乱数などでスクランブルをかけて保管するといったやり方だってあるはず。大切なのは情報の流出やプライバシーの問題を持ち出して利便性を排除することではなく、どのようにしてそれらを安全に活用するかを考えることです。そもそも、今回の問題にしても、そうやって失踪者を届け出なかったことによって年金が不当に搾取されているわけで、プライバシーがどうこうと言ってる場合でもないのではないでしょうか。
    ちなみに、ですが、高性能なカーナビゲーションを買えば、そこには全国の個人の住所と電話番号、氏名がデータとして記録されているわけで(NTT電話帳情報)、実際には世の中の多くの人々のプライバシーは、すでに流出しているといっても過言ではない状態でもあることも付け加えておきます。

    で、こうやって総背番号制を導入することによって、どのようなサービスをいつ受けたのかが瞬間的に把握することができるわけで、役所の職員は民生委員に個別訪問などさせずに、データ管理をすることで状況把握ができるようになるはずです。ある程度の平均値を取り(例えば乳幼児や高齢者の通院回数や、銀行などの利用率、電話や携帯電話の使用頻度等)、それに合致しないデータを洗い出せば、乳幼児の虐待も、老人の孤独死も、あるいは振り込め詐欺も防止できるかもしれません。
    図らずも昨晩「サマーウォーズ」で、データに依存した社会の脆弱性が描かれていましたが、そういったシステム障害はある程度は起こりうるもの。紙媒体による人的管理だって、紛失や天災などによって使えなくなる可能性が高いわけですから、データだから脆弱だということにはならないはずです。


    さて、こうした総背番号制を導入するとか、民生委員の負担を考慮するとか、そういった以前の話としてやはり行政の怠慢であるという考えができる事例もあります。それは各省庁からの指導として行われ、法と同様の効力を持つとされているもの、通達や先例、回答といったものの存在です。

    1つめは昭和32年1月31日の「法務省民事甲第163号回答」と呼ばれるもの。
    100歳以上の高齢者については、その者の所在が不明で、かつ、その生死及び所在につき調査の資料を求める事ができない場合に限り、戸籍謄本及びその附票の写しのみによって、職権消除の許可をすることができる。
    2つめは昭和32年8月1日の「法務省民事甲第1358号通達」。
    戸籍の附票に住所の記載の無い90歳以上の者で生存の見込みの無いものについては、関係者から戸籍消除の申し出があった場合、監督局長の許可を得て、死亡を原因として除籍して差し支えない。

    つまり、90歳以上の高齢者については関係者から申し出があった場合にはその戸籍を消除、除籍することができ、100歳以上に関しては申し出がなくとも職権によって消除することができるわけです。
    つまり、まさに今回の件で、100歳以上の高齢者に数十年に渡って医療保険の申請記録もなく、かつ年金の申請も行われていないような状況が続いていた場合、その戸籍を消除していいわけで、戸籍係が日々その業務を怠ることをしなければこの問題も起きなかった、とも言えるのです。

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